Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2010年10月4日月曜日

魔法の指環なんか無くたって通じ合える『ソロモンの指環 動物行動学入門』



昨日は京都・ベジタリアンフェスティバル2010に行ってきました。
ほんわかした雰囲気と、美味しいベジ料理で楽しく一日を過ごしました。別に菜食主義を悪く思ってるわけではないのですが、まぁこれも一つの宗教な訳です。宗教と同じく、行うのは時間とお金のある人間。または、考えすぎて内省世界に没入しすぎた頭のいい人間。
故に後者が、自己の学問分野を越えて理論・学問・権威を背景とした主張を行い、それに説得されてしまった前者と共にコミュニティを形成しているのが現状のベジではないでしょうか。
昨日もちょっと笑ったのが、毛皮製品の採取方法を紹介したパネルを見たノーマルの同行者が「週一日菜食の日を作る」と言い出したこと。いや、それ以外肉食の日があるなら何の意味もないだろ、と。

なんか攻撃的というか、批判的に書いていますが、それは「地球のため」「動物のため」論調が苦手だからです。僕自身も高校生のとき屠殺の現状を知り、自分で生活するようになったら動物を殺さない生活をするんだ!と人知れず燃えていました。無論主張内容は違いますが、新興宗教の入信パターンとそっくりなんですよね。

1.「死」「不幸」といったショッキングなイメージを与える(屠殺、毛皮、環境破壊)
2.それを回避する方法の提示(入信のススメ)
3.実践者の声(既存の価値観とのズレを埋める)
4.みんなで世界を変えていこう!(共同意識)

結局の所目先の変化ではなく、将来の大きな目に見えない変革を目標に据えるとこんな事になってしまいます。
本当に動物の事を思っているなら私財を全部投げ打って家畜やペットを買い取って暮らせる施設を作るべきですし、政治家になって「肉食」という風潮を変えていくべきです。思いやりを持つ事は非常に大事ですが、自分が肉を食べないことで動物や地球に良いことした感を持つような、自己陶酔的なものになるのは嫌だ、とセミベジの俺は思うのです。



前置きが長くなりました。本書はコンラード・ローレンツという近代動物行動学を確立した動物学者によるものです。友達が貸してくれて読んだのですが、文系の僕が読んでも非常に面白い。
なぜベジタリアンを話の最初に出しておいたかというと、この人は菜食主義でないにも関わらず、動物をペットと呼んで首輪を付けて無理やり家族階級制度に組み込んで服を着せたりするような勘違い動物好き、の遥かに高みを歩く動物好き、いや動物狂だからです。

彼は解剖や実験を嫌い、動物のありのままの姿を観察することを極限まで行う事で、立派に学術的な体系を作り上げているのです。
家にいっぱい動物を放し飼いにしておいて、その社会に自分を組み込んでもらえる努力を行い、動物達自身にその社会構造を教えてもらう、という。彼の娘さんは幼少期「逆檻の理論」を適用されて育ったそうです。なんぞそれ。何のことはない、ちっちゃい娘さんが動物達に傷付けられる危険のないよう、動物達じゃなくて娘の方を檻に入れちゃえばいんじゃね?って事です。笑った。

擬人化しすぎだろ、との批判もあったそうですが、仕方ないです。
あなたは自分の好きなものに対してどれだけ冷静に分析出来るのか。そこをしちゃうのが学者なんでしょうが、動物を家族とみなしちゃう位許してあげてください。
彼の文章は、訳の分らないものを客観的に扱う際の「~ようだ」「~らしい」があまり出てこず、ほとんど言い切り型です。その言い切りは、学者特有の自分を信じるあまり研究対象に冷酷になるそれではない。自分は手が二本あるから、君も手が二本。温かみのある、当然。彼にとって動物が、得体の知れない隣人ではなく気心の知れた仲間だからです。

ムツゴロウさんがヒグマのごんべいに求愛を受けたように、
コンラートさんもコクマルガラスのオスに、口の中に唾とミールワームをこね合わせたものをつっこまれそうになり、ちょっとそれを拒んでいるとどちらかの耳にその生あたたかい虫の塊を鼓膜の所までぎゅうぎゅう押し込められています。

劇的な事件の連続ではなく、こうした生き物との日常のやり取りが、一匹一匹の個性と共に描かれていて、とても幸せな雰囲気を醸しだしています。
丹念に目の前の仲間と向き合う事で、魔法のアイテムが無くとも、コミュニケーションは取れる。相手が何を思い、何をしたいのか。そこにどんな意図が存在するか。それを必死で考える著者の姿からは、生物学・動物学・心理学といった学問分野を飛び越えて、人間として大事なものを学び取ることが出来ます。

卑屈になった動物に顔色を伺われるのでなく、自分が暮らす分には全然問題ない程度のお金を使って動物を助け気になるのでなく、目の前の一匹の動物を愛することで愛されることこそ、真に動物好きだということなんじゃないか、とこの本を読む事で思えました。

趣味的な、一方的に注ぎまくる「愛」について。
➼愛とはべったりひっつけばイイってもんじゃない。『たかがバロウズ本。』

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