Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2011年9月18日日曜日

これぞ正に「オタク」である『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』




ナード映画と言うべきか、ギーク映画と言うべきか、迷ったので「オタク映画」を採用。


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主人公は、マイケル・セラ演じるスコット・ピルグリム。
原題は「vs the world」となっており、邦題は分かり易く改題されています。
けど、もしかしたらワールドの方がウケが良かったかもしれませんね。

この映画は、一人の冴えない男が、一人の女を手に入れる為に世界を敵に回す映画だからです。
いわゆる「セカイ系」の王道の様なストーリー。

「vs 邪悪な元カレ軍団」という、余りにも洋画和訳タイトル的なダッセェ感じもとてもしっくり来るのですが、
大筋を簡単に説明すると
「好きになった女の子に、熱中し続けている元カレが7人も居て、その女の子と付き合う為にはその襲い掛かって来る7人を倒し続けなくてはならない」
というストーリー。
この時点で酷くバカバカしいもの、とお分かり頂けたかと思います。
そういうのが嫌いな人は観るだけ時間を損します。

一つ難を言えば、その7人の中に「女の子」も含まれているので(百合!)、劇中で、そのヒロイン・ラモーナが表現するように「元恋人」と表記した方が良かったかも。

また、オタク映画といっても、ちょっと日本人の想像する「オタク」とはズレがあります。
まずヒロインが7人も元カレが居る、ということ。処女厨にとってはもう、忌むべき存在、ビッチなのです。
ntr展開まであるよ!やったね!たえちゃん!

それにヒーローも冴えない、とはいえ、バンドマンで、かつ彼女を振っちゃあ付き合い、を繰り返しているヤリチンなのです。

劣等感云々ではありませんが、少なくとも僕はあんまり主人公二人に感情移入はしませんでした。決して、劣等感では無いのですよ。

で、何がオタク的と感じたかと言えば、勿論随所に溢れるゲーム的な演出とかネタ元が様々なナードカルチャーだとかもオタク的なのですが、それ以上にシーン毎のブツ切り感が半端無い事・ヒーローにとって一番都合の良い展開である事、これらが非常にオタク的な雰囲気を感じさせました。

このブログに頻繁に引用してしまっていますが、斎藤環『戦闘美少女の精神分析』より。
おたくにはこうした「実体」や「実効性」への志向がむしろ乏しい。彼らは自分の執着する対象に実体と呼べるものがないこと、その膨大な知識が世間では何の役にも立たないこと、あるいはその無駄な知識が(とりわけ「宮崎勤」以降)軽蔑され、警戒すらされかねないことを知っている。そして、それを承知の上で、ゲームのように熱狂を演じて見せ合うのだ。
-p38.l8

本自体が古い為、文中に宮崎勤なんかが登場しますが、結構コレは普遍的なオタク像を捉えているんじゃないかな、と思います。現代において、人間の属性、たとえば「オタク」を定義付けようとした時、既に「アニメやゲームがひたすら好きな人」という、表面的な定義では捉えきることは無理です。趣味・興味は拡散して、今や「趣味がアニメだけ」という単一的な人間を探すのは難しいでしょう。にも拘らずオタク「っぽい」人は確実に存在し続けています。

では、「アニメ好き」と「オタク」を捉えようとした時、何が其れを分けるか。
それが「自分の執着するモノ(アニメなりゲームなり)が、社会的に無意味だとしても、ひたすら熱狂度合いを高められるかどうか」という点なのです。

スコット・ピルグリムにおける、シーン毎のブツ切り感は半端無い。
トレーラーを観てもらえればよーく分かると思います。

どんな映画か分かりましたか?
分からないでしょう。
実際、本編を観てもよく分からないと思います。はっきり言ってストーリーは破綻してます。でも、ワンシーン毎のワクワク感・力の入れ具合は凄まじいモノがあるのです。
辻褄合わせとか、ストーリーの緻密さ、そういったモノは、監督・エドガー・ライトにとっては最早おまけでしかなく、無意味さを知っていながら其れをひたすら熱狂的に練り上げ、重ね合わせる事で、「最高なシーンの連続」が出来上がっているのです。

また、展開が、ヒーロー・スコット・ピルグリムにとって超都合がイイ。
何でスコットはこんなに強いの?とか
女の子にモテモテで修羅場も出て来るのに何故上手く行くの?とか
バンドまで上手い具合になってくって進研ゼミかよ!とか。
突っ込み所の多い映画なのですが、そうしたツッコミどころは全て無視して、ひたすらエンディングへ突き進む強引さ。
其処には実体・実効性というものが全く存在しません。ある種、非モテの妄想的な展開。
「自身の熱狂」こそがオタクにとっての実体であり、それ以外は全てエッセンスでしかない。非常にオタク的な展開、世界観で構成されているのです。

実際、原作者のブライアン・オマー・リー、というかアメコミ全般において、アシスタントや編集者という存在はほとんど居ないらしく、(参照元:「スコット・ピルグリム」第3巻発売&映画公開記念!ブライアン・リー・オマリーvs相原コージ&竹熊健太郎)日本の一般的な漫画における「作者以外による介入」によって削ぎ落とされる、「作家の自己陶酔的・独り善がりな部分」がそのまま入れ込まれているからこそ出来上がったセカイなのです。

何か悪く書いたような感じになって来ましたが、これはつまり、最高に気持ちイイ映画だ、ってことなのです。
ただ、リアルな人間像を観たい、緻密に組み上げられたストーリー構成に触れたい、きちんと言い訳や社会的道徳の枠組みの中にあるエンターテイメントが欲しい、という人にとっては、本当にこの映画を観るのは無駄な時間なので止めた方が良い。例えば部屋に美少女フィギュアを堂々と飾ったまま、女の子を招待し、「ええ…ナニコレ気持ち悪…」等と追求を受けたら、「ぬほほ、コレがワタクシのジャスティスなので!」と言える位には、自分のセカイの強度を誇れる人間には堪らなく面白い映画なんじゃないでしょうか。

あ、言及するの忘れてましたが、ホント音楽もサイコーなんです。

俺の敬愛するPIXIESのフランク・ブラックさん参加ってだけでもう、買いなんですが、
まず主人公・スコットがベーシストとして参加してるバンド「SEX BOB-OMB」の楽曲を作ってるのがBECK。
このバンドの曲が、ヘニャヘニャのボーカルとブリッブリのベースの、ソニック・ユースをちょっとパンキッシュにした感じの楽曲が、何とも言えぬ「冴えない」カッコよさを演出してるのです! あー、きっとこういうの聴いてる奴って冴えんだろーなー、って感じの。


で、ライバルバンドの曲を作ってるのがBroken Social Sceneだったり、
トレーラーで思いっ切りBlood Red Shoesが使われてたり、ともうすっばらしいサントラなんです。



監督が自分の世界にのめり込んだ、ちょっと似た感じの日本のヒーロー(?)映画。
➼僕らの路地裏戦争『堀川中立売』

つきぬけたいだけ。
➼すべての発情期のサルどもへ『サルハンター』

原作コミック。

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