Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2012年5月18日金曜日

現代に蘇るロシア皇女・アナスタシア『冬の帝王』『死後の恋』『ドリフターズ』

ロシア最後の皇帝・ニコライ2世の末娘、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァの登場する、3作品について。アナスタシアの時系列順に、ご紹介します。
画像はWikipediaより。
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星野之宣『はるかなる朝』収録、「冬の帝王」より。

本作の時代背景は、ロシア革命の準備期間となるであろう、その六年前。
未だ、ロシア王家にも平穏な暮らしが続いています。

ただ、到る所に不穏な空気が見え始め、ニコライ二世の夢の中では氷漬けの帝王・ロシアの永久凍土で眠るティーレックスが語りかけて来るように。
どういった意味の夢かは分からないものの、そのティーレックスが眠っているであろう場所へ、ニコライ二世は出掛けて行くこととなります。

恐竜の王者たるティラノサウルス、強大な力を持ち地上を練り歩いたであろう彼と、
広大な領土と強大な国力を持ったニコライ王、
けれども二者とも滅んでいく運命にあったという「運命の重なり」が強く意識された物語です。

恐竜、ニコライ二世、スターリン、タイタニックがクロスオーバーする、SF時代漫画。

ココでは、アナスタシアは在りし日の皇帝の温かな日常の一部として、描かれます。
全く物語には関わって来ません。
それが逆に、「この先に何が待つかも知らず幸せに眠る」様を強調しているようで、俺は切なく感じました。
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「私の運命を決定て下さい」
(中略)
現在では、ロマノフ王家の末路に関する「死後の恋」という極めて不可思議な神秘作用に自分の運命を押えつけられて、夜もオチオチ眠られぬくらい悩まされ続けておりますので…


夢野久作『死後の恋』より。

ロシア革命により、皇帝一家は処刑されました。
アナスタシアも処刑された筈なのですが、ロシア政府が「皇帝は処刑したが、家族は別の安全な場所に居る」という嘘の発表を行ったために、「家族は別の場所で殺された」、「別の場所で生存している」という噂が広まったそうです。

日本の推理作家、夢野久作がそうした「アナスタシア生存説」を下敷きに書いたのが本作。
日本兵がウラジオストックの街で気の狂った様な男に捕まり、その話を聴く、という形式の作品です。

話は終始その気狂いの男の一人語りで語られるのですが、
アナスタシアがどの様に本作に登場するかは言いません。重大なネタばれになるので。

ただ、その「一人語り」故に、この物語の真実の構造が分からないところに、この物語の肝が、気持ち悪さが、有ります。
本当にそうだったのか、そんな思いが相手に有ったのか?
そしてそれを何故このキチガイ男は自己完結させず他者自認を欲するのか?

『死後の恋』においては、人間の様々な欲望・様々な傲慢に晒され、人生の悲惨さ・思い通りのならなさを描く為のパーツとして、アナスタシアが使用されます。
「アナスタシア生存説」を採用しながらも、決して生存して良い結果になる訳では無かったアナスタシアの運命に、久作さんのエグさが滲み出ます。

そして、この物語の結末の様に、決して史実上のアナスタシアも、「楽に死ねたわけでは無かったのだろう」、と邪推してしまった結果が、俺であり、平野耕太であり。

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平野耕太『ドリフターズ』より。

アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ。後ろに控えるのは、怪僧・ラスプーチン。

死ぬ前に行方不明になり死体が発見されなかった歴史上の偉人達?が
指輪物語ライクなファンタジック異世界に召喚され、闘いを繰り広げるのがこの『ドリフターズ』って漫画です。

主人公勢、島津豊久・織田信長・那須与一達の属する側は「漂流者(ドリフターズ)」と呼ばれるのですが、アナスタシアやジャンヌダルク、土方歳三は、黒王という人物の率いる「廃棄物」と呼ばれる集団に属します。

「廃棄物」とは、曰く、人ならざる悪しき者達。
死の直前まで世界を憎み切った状態で「こちら側」に召喚されたため、人で無くなっている、という人達です。
故に、漂流者側が純粋な戦闘力で闘うのに対して、廃棄物側は人外の術を行使することが出来ます。

アナスタシアが使用するのは、氷。
ロシアの永久凍土の様な状態を、眼前の目標へ再現出来る技のようです。

土方・ジャンヌ・アナスタシアでそれぞれ「眼の描かれ方」に差があり、
土方は単に冷静な目付きを、ジャンヌは狂った様なグルグル眼を描かれているのに対して、アナスタシアは暗く淀んだ眼。

今のところドリフターズは2巻までしか出ていないのですが、
2巻での彼女の活躍は無いため、まともな台詞はこれだけ。
絶望し、常に苦虫を噛み潰したような表情で、眼前の敵を凍死させる」のが現在の平野版アナスタシアのキャラクターです。


四姉妹の中で最も小柄だったが、明るく活発、ひょうきんな性格で、彼女の前ではどんなに気難しい人も笑顔になったという。家族からは「道化者」 「反逆児」などというあだ名で呼ばれていた。(wikipedia)

という生前の彼女の、丁度真逆の様なキャラクター設定。
『死後の恋』と『ドリフターズ』の間の時間にあった「何か」が、彼女の人格を真逆へと変えてしまった。

その「何か」が今作でどれほど描かれるかは分かりませんが、
ひとまずこの三作に触れることで、ある程度俺は「アナスタシア」を補完しました。

それは「ニコライ王朝」「皇女」といった煌びやかなイメージとは程遠い、「時代の犠牲になった女の子」という普遍的な悲惨さ。
彼女がアナスタシアだろうがそうで無かろうが、「ただの17歳の女の子」でしか無かったが為に、ただただ彼女は歴史に、時代に振り回される他無く、消えていった可哀想な女の子だ、と俺は至極単純に思ってしまったのです。


だからこそ、せめてフィクションの中では彼女に幸せな結末を迎えてもらいたいな、なんて甘っちょろいことを少し、思いました。


ドリフターズ、敵方なんでまず幸せな最期なんて無いだろうな、って思ったので、せめておまけ漫画で位幸せになって欲しいな、なんて思ったけど、平野御大がそんな優しい筈が無い。


1巻を読み終わって、すぐの感想。

ラスプーチン大活躍。






アナスタシアが趣味で撮り貯めていた写真を集めたモノ。






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