Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2014年10月2日木曜日

園子温の『TOKYO TRIBE』観たら感動してしまった

HIPHOPとそれに関わる文化に対して、俺は全く関わってこなかったせいか、音楽としてたまに良いな、って感じることはあるのですか、「ワル」とか「B系ファッション」とかどうにも相容れない・距離を置きがち、なのです。
なので井上三太「TOKYO TRIBE」を読みたいと思ったことも読もうと思ったことも無かったんですが、園子温が撮るならなんかあるに違いない、と思って今更観に行ったら、すげぇ良かったんでびっくりしました。



------------------------------------------------------------------------------
まず、園子温作品の魅力として、濃すぎる味の小品を満漢全席のように並べ立てて、それを一つ一つ吞み込んでいくと、本当に誰の心でも捉えられるような真実が残る、という大爆発と繊細さとが同居するような作風

本作はバトルヒップホップミュージカル、なんて銘打たれていましたが、まさにそうした満漢全席の如き「全編お祭り感」で溢れています。

まず、キャストの豪華さ・無駄遣いの半端なさ。
出演者を観ると、本当に誰でも分かるような名優・有名人がガンガン名を連ねていて、悪の帝王役に竹内力、妻は叶美香、息子は窪塚洋介、娘はしょこたん。で、その敵組織の切込み隊長役は鈴木亮平(良い体過ぎ!)、語り部役には染谷将太で、園作品ではおなじみのでんでんさんは裏ボスみたいな立ち位置に。ほんで主人公やその他「トライブ」には本当に東京のトライブさんたちというか、有名なラッパーたちがずらずらと居て、キャストを観るだけでもお祭り感パないです。
個人的には、敵チームの存在感が恐ろしく良くて、もう馬鹿みたいに凄みを効かせ過ぎて何言ってるか分かんない竹内力演ずるボスのボス感を始めとして、その妻・叶美香の醸し出すゴージャス感、窪塚洋介の道楽息子で本当に何もしてないのに何か迫力を感じさせる中ボス感、しょこたんの圧倒的場違い感から生まれる金持ちの娘感、鈴木亮平の壮絶な表情と壮絶な肉体が生み出すもの凄い存在感。いや、でも窪塚洋介の演技がホントもうね、能力バトルものにおいて「残忍かつトリッキーな、カードとか使って相手を殺す変態的能力者」を思わせる怪演ですごい良かったです。「立ち上がれ、家具たちよ」はゾクゾクしたなぁ。
レスラーの高山とか、ヒューマンビートボクサーのサイボーグかおりとかがとてもどうでもいい役所で出てるのもソーグッドです。
あと、染谷将太が主人公かな?と思ったら、導入部と終盤でラップを歌って状況説明・盛り上げを行う、狂言回し的立ち位置だったのですが、これもすごい良かった。周りが本職のラッパーで溢れる中、素人が頑張って習得した感の残る染谷ラップが、どうにも「暮らしの中のヒップホップ」って感じで、物語世界にグイグイ惹き付けられる一因になっていました
それと、この映画「バトル」と銘打っている通り、アクションシーンも素晴らしくて、清野菜名って女性と坂口茉琴って少年が演ずるキャラクターが、それぞれスタント無しで凄い動くんです。この二人があまりにも軽やかに凄い動きを連発するので、映画館から出た後でちょっと自分がエアマスター的な存在として闘えるんじゃないか、闘いたい、みたいな変な錯覚をしました。

で、舞台設定はタイトルにもある通り、東京なんですが、ただ区同士がぶつかり合ってたりとか、ワルとヤクザ組織とが同一線上にあるような異空間「トーキョー」での話で、その「似通ったところはあるけども全く違う異世界」を作り上げている舞台芸術も素晴らしかった。たとえば、九龍城をモデルにした「ウーロン」という巨大売春・阿片窟みたいな所があるんですが、そこのスラム感タマンナイ。あとはそれぞれのトライブが生息する、シンジュク・ブクロ・ムサシノの、それぞれの土地勘のある建物や、トライブ各々のファッション性。園子温映画のケバケバシさが凄く上手く噛み合って、ちょっと違うトーキョーが、確かに在りました。

惜しむらくは、というかちょっと筋違いなんですが、最初に書いた園作品の「誰の心でも捉えられるような真実が残らなかった」点。まぁそういうのを求める映画じゃない、ってのは観てる最中に分かりきっていたんですが、本当にストーリーはなんにも無いんですよ。
ワルたちは各々が属する地区・チームがあって、チーム(トライブ)はお互いに牽制し合っているけども、そこに共通の敵が現れたので、団結して倒すよ!トーキョートラーイブ、仲間は大事!
ほんとにこんな話で、根っこの部分はワーストやらクローズやらと同じ、社会の道理に従えないワルにも、守りたいものがある、みたいなしょーもない話なんですが、園子温は敢えてそれをメインに据えず、「トーキョートライブ」という世界を作り上げることに専念したところが、この映画を「ヒップホップ映画」「ワル映画」で終わらない「バトルヒップホップミュージカル」という一大名作エンターテイメントに仕立て上げたのです。
その、園さんがワル映画を撮ろうとして、変にリアリティのあるワルドキュメンタリみたいなものではなく、異世界・トーキョーの、ヒップホップを糧に生きるトライブたち(決して「ラッパー」「ヒップホップ・ギャングスタ」という実在する人たちではなく)という架空の存在を「作ろう」としているスタンスが、そして本当にそれが映画の中に出来上がっているということが、俺にはとても感動的だったのです。
なので、この映画はレペゼン・東京トライブが観るのにイルな映画なんだけども、そういうコアな世界に疎いオーバーグラウンドのクルー(ヒップホップをあまり知らない、ヒップホップ界隈の外の人間の意)が観ても最高にファットな映画なんだぜ、ヤ、マイメン。




トーキョートゥライブネバエバッダーイ
染谷将太と窪塚洋介のラップが耳から離れないのでサントラ買おうと思います。




0 件のコメント:

コメントを投稿