Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2016年10月21日金曜日

牧原若菜『戦慄!おおぐち女』

牧原若菜『戦慄!おおぐち女』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆


☆満点作品です!

今井康絵さんの単行本について書きましたが、俺が「ちゃおホラー!!!!」となったのはこちらの本がきっかけ。

初読時は「なんか変な感じだったなー、ホラーとも言い難いし、なんだろ」と放置していたのですが1ヶ月くらいして再読した所、猛烈な「アタリ」感を覚えたのです。

表題作「戦慄!おおぐち女」。
「痩せたい」と願う女の子が、「身に着けると痩せられる」と注釈の付いた人形を拾う。
痩せて美しくなったのも束の間、女の子の前には化け物の様な幻覚が見え始め、体調は悪くなり、性格も悪くなってしまう…。最後は女の子の望まなかった終わり方を迎え、笑う人形。
人形が何だったのか、なぜ「おおぐち女」だったのか、鮮烈なビジュアルとは対極的に、恐ろしいほどの説明不足。けれどもこれは「ホラー漫画」。説明しない、理不尽さが、未知・不明瞭を以て読者に襲い掛かる。

「呪魚」。
巨大な魚を殺してしまったことで、魚に呪われるように?なる。幻覚なのか現実なのか、そうこうしている内に、ヒロインは魚に変身し始める…。
ストーリーとしては単純な「因果応報もの」、ホラーの定型とも言えるシンプルな形なのだけど、呪って来る魚の異様なフォルム、また、魚に変貌する主人公の姿は、臓物や人体破壊が無くとも「これはホラーだ」と読者に訴えかける強いビジュアルがある。

その他「怨霊ゲーム」「招きこたつ」「ソノ顔クダサイ」「続・おおぐち女」全作品面白い、奇跡的な短編集です。
で何がそんなに素晴らしいか、大きく牧原若菜先生には2つのセンスがあって、

・何を説明「しないでいいか」分かっている
漫画を作っている友人によく聴くのが、「描きたいことはいっぱいあるけど、何を省けば規定の量に収まるか・伝わり易くなるのかが分からないから、そこで編集者の力が欲しい」と。牧原若菜先生は、どうすれば伝わるかが分かっているため、「バンバン削る」、一種不親切なほどの説明不足感が、ホラーに大事なスピード感・勢いになっています。

・「ちゃおホラー」という戦場と「ホラー漫画」という組み合わせ
「ちゃお」っぽい絵柄、少女漫画に疎く何の類型かってところが言えないんですが、そこからの強烈なアイデア溢れる「ホラー絵」への落差。伊藤潤二さんと同じく、シーンだけ切り取ると結構ギャグ的な扱いを受けてしまう部分があるのですが、この展開・落差において、牧原若菜先生の絵はかなり説得力を持っています。

現在のところ、アンソロ以外だと『戦慄!フラワーマーケット1・2』『誰かに話したくなる怖い話』の4冊の単行本を出されていますが、未だこの「おおぐち女」という最高峰は越えられず。いや、作品の質が、とかでなく、ホラーヒーローものだったり怪談コミカライズだったりを若菜先生にさせるのはやめてくれちゃお編集部!ってことなのです。

ともかく俺は牧原若菜先生の、創作短編ホラーの新作が読みたいんや!そのためにちゃおホラーデラックスを買い続けることも辞さない!牧原若菜ァー!早く来てくれェーッ!!


0 件のコメント:

コメントを投稿