Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2016年10月8日土曜日

日野日出志 『毒虫小僧』

日野日出志 『毒虫小僧』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆

※ネタばれアリ
☆満点作品です!
日野日出志、と言えば『地獄の子守唄』もしくは『蔵六の奇病』をパッと思い出される方が多いんではないかと思いますが、『毒虫小僧』もそれらに並ぶ知名度・人気を誇る作品ではないでしょうか。

日野日出志流「変身」。自分の吐瀉物から現れた謎の毒虫に刺されることで、少年は「巨大な毒虫」へと変貌してしまう。
カフカの変身からもろに影響を受けたであろうこの作品は、「明確に作中で虫の外観が示されること(漫画ゆえに、ということもある)」「変身したことを自覚的に楽しむ」という点において、大きく(『蔵六の奇病』とも)差異があります。

理不尽に虫に変身させられる様子は非常に恐ろしく、また、少年が何か悪いことをしたワケでも無いのに、という因果応報的にも納得出来る理由がありません。ただ、気持ち悪いものに変身させられ、気持ち悪い世界→下水道に済むことを余儀なくされる。

とても、怖いのです。
少年の変貌した芋虫のブヨブヨとした気持ち悪さ、毒虫特有の刺々しいデザイン。下水道に流れて来る腐った死体。毒虫に変身したためにそれを美味しい美味しいと喰う様。次第に食料のために生き物を殺すようになり、エスカレートして快楽殺人的に人を襲うようになる精神の変貌。恐ろしく思った家族、父親に猟銃を向けられ、「怪物」として殺されてしまう。
恐ろしい物語。けれども、怖さよりも多分読んだ人には寂しさが残る、そんな作品。

吐瀉物から現れた毒虫はなんだったのか?
何故刺されると毒虫になってしまうのか?
「力」を手に入れた人間は、少年のように精神も毒虫と化していくのか?

それらに対する説明は全くありません。「説明されないこと」も恐ろしさを増幅させる、名作ホラー漫画になるための一つの要素だと思います。
けれども、『毒虫小僧』の魅力は、恐怖以上に、「毒虫に変貌してしまった少年の中に見え隠れする自分を発見してしまうこと」、なのでは、と思うのです。

幼き日に読んで、今も心に爪痕を残す日野日出志漫画の中でも、『蔵六の奇病』『地獄の子守唄』『恐怖のモンスター』そして『毒虫小僧』は、特にガリガリと傷跡が残っているのです。どれも日野日出志作品全般に流れる恐怖と孤独感を、じっとりたっぷりと体内に溜め込んだ、名作です。


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